ここでは遺言の種類、効力などの概要と、遺言で書くことのできる内容、代表的な遺言の様式について解説します。
目次
遺言とは
(1) 遺言とは
遺言者がなくなった後の財産の行方等を決める単独の意思表示で、遺言者の死亡によって効果が発生します。
(2) 遺言をするために必要な能力は
未成年 :満15歳で遺言ができます
成年被後見人:事理弁識能力の回復時において、医師2名以上の立会の下で遺言できます
被保佐人・被補助人:単独で遺言できます
(3) 遺言の方式
民法で定められた方式でなければ無効になります
一例:一人1通で、夫婦の共同遺言は禁止
(4) 遺言の種類
普通方式と特別方式に分かれます。
普通方式とは、通常時に使われる遺言の方式で以下の方式があります。
①自筆証書遺言(民法968条)
・遺言書を自分で作成し、自宅で保管できます
・証人は不要です
作成は簡単ですが、遺言書自体は全て自書しなくてはいけません。また書式や書くべき内容などに細かな制限があります。
自宅保管できますが紛失や不発見となったり、変造が可能です。
家庭裁判所の検認手続きがなければ遺言が存在したことになりません。法務局で保管する場合は検認手続きは不要になります。
②公正証書遺言(民法969条)
・遺言書の紛失や変造の防止に用いられます
・証人2人の立会の下、公証人に遺言の趣旨を口授します
家庭裁判所の検認手続きは不要です。
③秘密証書遺言(民法970条)
・遺言書の存在は明らかにし、その内容を秘密にしておきたい場合に用いられます
・公証人1人と証人2人の立会の下手続きします
家庭裁判所の検認手続きが必要です。
特別方式の遺言とは、死亡の危急に迫った際や、交通が断たれた場合に普通方式では遺言をすることができないときに行われる遺言の方式です。
①一般危急時遺言(民法976条)
②難船危急時遺言(民法979条)
③一般隔絶地遺言(民法977条)
④船舶隔絶地遺言(民法978条)
(5) 遺言の効力
遺言者の死亡の時から効力が生じます
※遺言能力のない者や民法で定められた方式に従わない遺言は無効になります。
(6) 遺言の撤回
・いつでも遺言の全部または一部を撤回(否定)できます
・前の遺言と後の遺言が抵触(矛盾)するときは、後の遺言で前の遺言が撤回(否定)されたものとみなされます
・遺言者が遺言書の破棄、遺贈の目的物を破壊したときは、破棄した部分、その目的物についての遺言を撤回(否定)したものとみなされます
相続手続きの中では、自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合と公正証書遺言の場合とでは手続きに違いがあります。
遺言書があった場合、自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認手続きを経た後に、公正証書遺言では検認手続きを経ることなく遺産分割協議へ向けての手続きを進めることができます。
自筆証書遺言であっても、法務局で保管する自筆証書遺言書管理制度を利用した場合は、検認手続きが不要になりました。(令和2年7月から)
遺言の内容
遺言で書くことのできる内容は書きたいことを自由に書くことができるわけではなく、民法の規定する要件に沿った事項を書かなくては有効な遺言にすることはできません。
遺言は一人の意思表示なので一人1通で夫婦共同の遺言などはできないことは大原則ですが、それ以外に以下の事項について書くことができます。
①子の認知(民法781条2項)
②未成年後見人・後見監督人の指定(民法839条,848条)
③相続人の廃除とその取り消し(民法893条,894条)
④祭祀継承者の指定(民法897条)
祭祀財産(お墓など)を管理する祭祀継承者を指定します。祭祀財産は慣習上祭祀を主催すべきものが承継するため相続財産には含まれません。
⑤相続分の指定等(民法902条)
相続分については特に指定の必要があるときに書きます。
しかし、配偶者、子、直系尊属に対して極端に相続分を減少させる指定をしても、最低限受け取ることのできる割合の遺留分がありますので実効性はありません。
⑥持ち戻し免除の意思表示(民法903条2項)
相続人に対する贈与・遺贈がある場合において、共同相続人間の遺産分割を公平にするために贈与・遺贈分を相続財産内に持ち戻したうえで、相続分に応じた分割を行いますが、特定相続人への財産を多くするために贈与・遺贈した財産を相続財産内に持ち戻すことなく遺産分割させるための意思表示となります。
⑦遺産分割の方法の指定等(民法908条)
例:遺産分割の禁止
⑧遺言による担保責任の定め (民法914条)
遺言者の契約による担保責任は原則的に共同相続人の法定相続分で負担しますが、遺言書で担保積金の負担を指定したときは遺言書に従います。
⑨包括遺贈(遺産の全部または一定割合を与える) (民法964条)
または 特定遺贈(目的物を特定して与える)
受遺者は相続人以外でも構いません。
遺留分権のある配偶者、子、直系尊属の遺留分を侵害する遺贈をする場合は、遺留分侵害請求により金銭債権の支払い請求を起こされて実効性がなくなります。
⑩遺言執行者の指定等(民法1006条)
遺言を実現する一切の権限を与えるために、特に指定される一人または複数人を遺言執行者といいます。
遺言執行者を指定すること、またはその指定を第三者に委託することができます。
⑪配偶者居住権の存続期間にかかる別段の定め(民法1030条)
遺言者の配偶者が遺言者死亡の場合に遺言者の財産である建物に住んでいた時には、配偶者が死亡するまでその建物の全部の使用・収益をする権利がありますが、遺言書で期間の指定をすることができます。
⑫遺留分侵害額の負担についての意思表示(民法1047条1項2号)
受遺者まはた受贈者のうちで誰が遺留分を負担するのかを特に指定するときに書きます。
原則の遺留分負担順序は受遺者(金額の割合で負担)、次いで受贈者(同左)です。
⑬財団法人の設立
⑭信託の設定
⑮保険金受取人の変更
特に遺言でのみできるのは、②,⑤,⑦,⑧,⑨,⑩,⑫です。
また、相続財産が多く、何を誰に取得させるかについて具体的に記す場合に必要となる、財産目録を添付することができます。
遺言の様式
遺言は種類によって必要な様式は異なります。ここでは普通方式の遺言で代表的な自筆証書遺言と公正証書遺言について、様式に違いがあることを解説します。
遺言の内容については前章で解説した通りですが、その様式(フォーマット・書き方・手続き)は異なります。
自筆証書遺言
自分で遺言書を書き自宅で保管することができます。
作成するためのハードルは低いのですが、全文を自分で書かなくてはいけないため、集中力や書くための時間、内容についても書くべき事柄、書いてはいけない事柄への理解が必要です。もし、不備がある場合にはその遺言書は無効になってしまいます。自宅で保管することができますが、紛失や発見されなかったり、変造の危険性もあります。
様式の制限等
・遺言書の全文を自ら書く(自書)必要があります。
・遺言書を作成した日付は自書で日付を特定できる書き方で記入する必要があります。
〇:xx年△△月◇◇日 有効
✖:xx年〇〇月吉日 無効
・氏名の自書のほか、遺言者の同一性、遺言の真意性・完結性を担保するために押印が必要になります。押印は実印である必要はなく、拇印、指印でも可能です。印鑑を使わない習慣の国・地方出身の方にはサインでも有効との判例があります。
複数枚にわたる場合には全体として1通と確認できるのであれば1枚にのみ署名押印すれば足ります。契印や各ページへの押印は無難ですが必須ではありません。
・内容を変更するときは、付記に変更箇所の指示として変更した旨の記載と署名・押印、変更箇所に押印をしなければ変更の効力が認められません。
・遺言書と一体で財産を特定するための財産目録を添付することができます。 財産目録の様式は全文を自筆する必要はなく印刷やコピーでも可能です。その場合には財産目録の各ページには氏名の自署と押印が必要になります。両面コピーの場合であっても、その両面に氏名の自書と押印が必要です。
※遺言者死亡後に遺言を有効とするためには、遺言書の検認を受けなければなりません。相続の開始後、遅滞なく家庭裁判所で検認を受ける必要があります。封印がある場合は相続人またはその代理人が立会いがなければ開封することができません。
ただし、令和2年7月より開始した自筆遺言保管制度を利用した遺言の場合は検認手続きは不要となります。
リンク:自筆証書遺言保管制度の概要
自筆遺言保管制度(法務省へ)
公正証書遺言
最も確実に遺言書を残したいときに使われる方法です。
遺言者と証人2名の立会の下で、公証人に対して遺言の趣旨と内容を口述して作成します。文書作成の専門家が作成するため、無効となる危険性は非常に低いです。
法務局で保管されるため、紛失や変造されることはありません。また、自筆証書遺言や秘密証書遺言で必要な検認手続きは不要です。
作成方法(民法969条)
・作成には証人2人以上の立会い(1号)
・遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する(2号)
・公証人が口授を筆記して、遺言者と証人に対して読み聞かせ、または閲覧(3号)
遺言者と証人が筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名・押印、 署名できないときは公証人がその旨を付記して署名に代えることができる(4号)
※印の種類については特に制限はないようですが、実務的には実印とその印鑑証明でもって行われています。
特則(民法969条の2)
・口のきけない者の場合は上の2号の口述を、通訳の者が遺言の趣旨を申述、または遺言者の自書で口述に代える(1号)
・耳の聞こえない者の場合の3号の読み聞かせは、公証人は筆記した内容を通訳人の通訳によって遺言者または証人に伝えて読み聞かせに代えることができる(2号)
公証人は上記の方法で作成したときはその旨を証書に付記しなければならない(3号)
作成のために必要な情報
(1)遺言内容に関して
・遺言者の実印とその印鑑証明書(発効後3か月以内のもの)
・遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
・相続人以外に遺贈する場合にはその人の住民票
・相続財産が不動産(土地や建物)の場合は
①不動産の登記謄本
②固定資産評価証明書または固定資産納税書の綴り
・相続財産が不動産以外の場合はその財産を記載した書類・メモなど
(2)証人に関して
・証人の住所、氏名、生年月日、職業、のわかるもの(書類・メモなど)
※証人になれない方
未成年者
遺言者の推定相続人
受遺者とその配偶者ならびに推定相続人
直系血族
(3)遺言執行者に関して
・遺言執行者の住所、氏名、生年月日、職業、のわかるもの(書類・メモなど)
公証役場に持ってゆくもの
・遺言者の実印
・証人2人の認印(スタンプ印は不可)
公証人に支払う手数料
詳細な金額は日本公証人連合会の公証事務>遺言>公正証書遺言の作成>Q7 に記載がありますが概略を説明します。
・相続人ごとの財産額で変動する基本手数料(A)
・財産の総額にかかる遺言加算(B)(1億円以下の時 +11,000円)
・遺言書枚数にかかる手数料(C)(4枚を超えた枚数1枚ごとに250円)
・正本・謄本の交付手数料 (D)(枚数1枚ごとに250円)
総額=(A)の総和 +(B) +(C) +(D)
-計算例-
総額3,500万円の財産を分ける場合
妻 :2,000万円 (A1)=23,000円
長男:1,000万円 (A2)=17,000円
次男: 500万円 (A3)=11,000円
総額1億円以下のため (B)=11,000円
遺言書枚数6枚 (C)=(6-4)×250円=500円
交付枚数 正副で12枚 (D)=12×250円=3,000円
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合計 65,500円
さらに出張して作成した場合は
・病棟執務加算 基本手数料(A)総和の5/10倍
・日当 往復に要する時間が4時間まで1万円、4時間を超えると2万円
・交通費 実費
が必要になります。
行政書士が関われること
行政書士が遺言の作成に関して以下のことについてお手伝いできます。
・遺言内容に関する情報から文案を作成すること
・公正証書遺言においては証人となること
・遺言執行者となること
それぞれ遺言を作成するお客様との信頼関係に基づいた契約になります。